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涼口ハルオの筋肉 1-2

 
 入学から間も無く一月が勃とうとしていた。
 この頃のハルオはまだ大人しい時分で、俺にとっても心躍る良い月であったと記憶している。
 
 話は変わるが、この一月ハルオと学校生活を共にして分かった事が幾つかある。
 
 発展、いや、発見その一。
 ハルオのの角度が曜日ごとに違うということ。
 ハルオは毎朝、というか気がついたら舞台キメているのだが、その際のジョイスティックの角度が
 月、火、水、木、金♪と、曜日が進むごとに約10度ほど違うのである。
 月曜日は約60度と大人しい事から推測するに、日曜日には最高潮となり月曜日にはリセットされるらしい。
 日曜日には一体どんな凶器(キャノン)になっているのか、見てみたい気もするぞw。
 
 発展そのニ。
 これは実際の被害から分かったことだが、ハルオは男だったらノンケでも食っちまうような奴だということだ。
 入学から一月で既にクラスの半数と関係を持ったようで、一部の教職員とも盛っているらしい。
 噂では校長室で教頭・校長・ハルオの三人で<自主規制>を目撃した生徒が居たとか居ないとか…。
 一体、どんな性欲してやがるんだ、全く。
 
 発展その三。
 この頃のハルオはまだ大人しかったのであるが、ではこのときハルオが一体何をしていたのかと言うと、
 なんとナニをしながら学校中のありとあらゆる部活にカリ入部していたのだという。
 まぁ元々その体躯故か体育会系の部活を始めとし学校中の総てのクラブがハルオのを欲しがっていたのだが、
 結局、まるで有名になり始めたダンディ坂野を思わせるほど落ち着きがなく、入っては出て入れては出してを繰り返し、
 結果として未だにどのクラブにも本番、もとい本入部していないのだという。
 
 全く、ナニがしたいんだろうなぁコイツはよう。
 

 ◆ ◆ ◆ ◆
 
 
 ある日の事である。
 
 その日は気候も湿度もこれといって特徴も無く、特筆すべき事も無く、平々凡々と終わる日であった。
 …ただし、いつも通りならば、である。
 そう、ハルオさえ居なければ、この日は極々普通の日常で終わるべき筈の日であったのだ。
 
 
 
 朝。
 いつもの様に教室のドアを開け、まばらなクラスメート達の姿を横目に見ながら窓際にある自分の席に着いた。
 と、後ろからRASHの得も言えぬツンと鼻につく独特の匂いが漂ってきた。
 振り返るとそこには、いつもの様に卓上で<そんきょ>の体勢に構えてRASH吸いすい無言で舞台をキメる涼口ハルオの姿があった。
 どこでも関係無くしごき続ける相変わらずの雄っぷりはいっそ清々しさすら感じてしまう。
 しかし…どうも妙である。雄舞台自体には変化が無く、周りのカメ子達もなんの変哲も無いように相変わらずローアングルから攻めてきていたが、俺の目からは
 どうもハルオの覇気が無いように見えた。
 いつもならばセットで連呼しまくりな為に教室の外からですら一発で室内在中だという事が分かるというのに、
 席に着くまで気が付かなかったのは今日が初めてであった。
 
 「なあ、元気無いみたいだが、どうかしたのか?」
 
 いかん、また考えも無しに話しかけてしまった。
 まあ、どうせ、話しかけた所でハルオとの会話が成立する訳も無く―――
 
 「ああ…、どうもこの学校にはいい男が居ないなんだぜ…」
 
 …している。会話が、成立している?
 慌てて聞き返す俺。
 
 「へっ、へえ。そうなのか。なんでそう思ったんだ?」
 「そりゃあお前、実際に盛り合った結果に決まってるんだぜ」
 
 手を止めずむしろ激しさを増しながらこちらを見るハルオ。
 おいおい、『実際に盛り合った』ってお前、学校中の男全員と盛ったっていうのかよ?
 
 「めぼしいクラブには片っ端から入部してみたんだぜ…
  だけど一番持つ奴で四時間半。どいつもこいつもご時間持たない奴だけで、全然物足りないんだぜ…」
 「ご、五時間ってお前…」
 
 そんなんチョコボール向井でも無理に決まってる。
 それに四時間半って誰だ。十分異常だよそいつも。
 
 「生徒数もこれだけの数居るわけで、どこかのクラブには…って高を括っていたんだが、まさかここまでいい男が居ないなんて、ガッカリなんだぜ…」
 
 いやお前を満足させる程のホットガイは日本全国探してもそうは居ないと思うぞ。それこそ本場に留学でもしなけりゃな。
 しかしなるほど、総てのクラブにカリにゅっぷ、もとい仮入部していたのはそういう訳か、と一人納得する。
 
 「しかしいい男なんて、そうホイホイ居るもんじゃ無いだろう。探すだけ無駄じゃないか?」
 
 と俺が言うと、ハルオは俺に大きく頭を振ってから、
 
 「いいや、絶対居る筈なんだぜ。きっと、テレ屋さんで、どこか隠れてるに違いないんだぜ!」
 
 と言い放った。一寸の揺らぎもない見事な自信である。
 しかしちょっと待て、それは少しおかしいというものじゃあ無いだろうか。
 それは彼は自分自身で証明したのである。
 すなわち、この学校には雄臭ぇ奴らなんてそうは居ないって言うことをだ。
 昔からそういう奴らは体育会系にイくっていうのが慣例で、ハルオはなんと総てのそっち系のクラブにカリ入ぷして自ら確かめたわけだ。
 つまりこの学校ではこれ以上期待した所で無駄だという事で、
 そもそも我々、いやお前のような雄野郎はこんな
 
 「平々凡々とした極々一般的な地方の学校なんかには入るべきじゃあ無くて、それ相応の場所で日々を粛々と過ごしていくのがだな……?」
 
 あれ、俺、喋ってる?
 そう知覚した瞬間、あっという間に俺の頭に血が上るのを感じた。
 
 (あ、ちょっと待った、え、ちょっ、マジか。口に出てるって!)
 
 気がついたら口から思っている事が出ているというのは、俺の悪い癖である。
 おまけにこれほどツッコミがいのある奴を前に我慢できる野郎もそうは居ないだろう。勿論様々な意味を含めて、である。
 
 やばい。
 妙にじっとりとした汗を背中に感じながら恐る恐る前を見ると、そこには、
 
 
 「ちんぽいいっすぅぅぅうううう!!マジいいっすうううううう!!変態リーマンモロだしエロおチンポっすううううううう!!
  ここっす!この先っぽの割れ目が良いんすうううううううううううううう!!!」
 
 気がつくとハルオは舞台を再開しており、俺の言葉は全くとイッて良いほど耳に入らないという様子であった。
 やれやれ、参ったねこりゃ。
 しかし聞かれていなかった方が俺にとっても幸いであるし、何よりこういう放置プレイもなかなかにして捨てがたい。
 ここは「ああ良かった」と大胸筋をなで下ろす場面であろうか。
 いやそれよりもフラグ立てに失敗した事を素直に嘆く所であろうか。
 まあ、過ぎたことを考えても仕方がない。ここは無かったものとして忘れるのが一番である。
 いつの間にかハルオの周囲に寄ってきたローアングラー達のフラッシュを横目に見ながら、俺はそんな複雑な気持ちで自分の席に着いたのであった。
 
 
 
 このイベントを俺は楽観的に捉えていた。これは取るに足らない、ただの汎用イベントだろう、と。
 しかし、この瞬間。確かにハルオのナニだけでなく、フラグは立っていたのだ。
 そう、俺の死亡フラグという名のフラグが――――。
 
 
 
 ◆ ◆ ◆ ◆
 
 
 『それ』はその日の三時限目、保体の授業が二度目の板書に入り、シャーペンの芯を出す音やペンを走らせる掠れた音だけが教室中を支配している、
 そんな時に唐突としてやってきた。
 
 授業はちょうど第二次成長期の真っ最中で、黒板には懇切丁寧な大きな性器図がこれでもかと描写されている。
 しかし現在俺の机に開かれたノートのページは残り余白が僅か数行で、
 次のページを使おうか、いやそれとも無理やりこのページに収めようか、そんなことを考えていた時の事だった。
 
 そこで事件は起きた。

 「……あ?」
 
 グッ。
 
 突然イスの背もたれに、何やら力の掛かる感覚。
 
 ドッズッシャアアアアアア!
 
 それを感じた瞬間、俺の視点は縦方向に高速スライドしていた。
 凄まじい風圧。
 突然世界がぐるりと縦回転し、俺はまるでハリウッドよろしくワイヤーアクションを使ったダンディ坂野のように宙に投げ出される。
 
 え、何?何が起きたの?
 
 その瞬間。
 教室の空中で俺は見た。
 机の上に<そんきょ>の体勢で構えながら、俺のイスの背もたれを丸太の如き腕で掴み、空中の俺に向かって親指を立てながら
 スッゲェ雄臭ぇホットスマイルを浮かべている涼口ハルオの姿を―――。
 
 ドンズガバッシャラリヤーン!!
 「ごぶはっ!」
 
 何が起きたのか知覚する前に、俺は体の上下が反転した状態で後ろの壁に叩きつけられ、
 したたかに背中を打ってしまった。
 この時俺の全身を襲った衝撃は、そりゃあもう筆舌しがたい物だった。
 なんたってクール&ビューティーを売りにしているこの俺が、まるでダンディ坂野が宇宙怪獣ソラスに踏み潰された時のような声を出してしまったのだから、
 その度合も伺えるというものであろう。
 そしてようやく自分の身に何があったのか理解した頃には、既に俺は重力の法則に従って
 地面へ口づけを開始した後であった。
 ここまで僅か二秒程度の出来事である。
 
 「お、お、おぁぁ……」
 
 とりあえず意識を失う事は無かったようで、かつ体がまだ動いたのは不幸中の幸いと言えよう。
 声にならない呻きを漏らしながらなんとか立ち上がってみたものの、果たして本当に大丈夫なのかどうか、
 この時の俺の体にはただただ激痛が走るばかりであった。
 おいおい、こりゃあシャレにならないぞ。肋骨とか折れてないだろうなオイ。
 
 「ハッ、ハルォ…なにしやが… 「思いついたんだぜっっ!!!!」
 
 ドズブブプッ!!
 
 「ヴォースゲー!!」
 
 必死に絞り出した俺の悪態は、威勢のよい叫びと共に突うずるっこまれたディルドーによって完全に阻まれてしまった。
 この時の俺の菊を襲った衝撃は、そりゃあもう筆舌しがたい物だった。
 なんたってクール&ビューティーを売りにしているこの俺が、まるでダンディ坂野がディルドーを突うずるっこまれたかの様な声を出してしまったのだから、
 その度合も伺えるというものであろう。
 既にこのとき俺は痛みと快感の波状攻撃で頭がフットーしそうなほど盛り上がっており、これ以上ステキな行為に及ばれたら流石の俺も
 ステキ止まらない事になってしまうのは確定的に明らかであった。
 しかしハルオは無情にも、何やら早口でまくし立てながら、俺に挿し込まれたディルドーを激しく抽送し始めたのだ。これにはスタッフも思わず苦笑いである。
 
 「ヴォー!スゲー!スッゲー!!」
 「なんでこんな単純なことに気が付かなかったんだぜ!自分で探しても見つからないなら向こうから来てもらえば良いんだぜ!」
 「スゲー!スッゲー!スッゲーっす!超スッゲーっす!」
 「部活なんだぜ部活!向こうから入りに来るような超雄臭ぇ部活を作れば向こうからホイホイやって来るに違いないんだぜ!!!」
 「スッゲー!!阿ッ!阿ッ!阿ッーー!!」
 「早速作るんだぜ!キョンも協力するんだぜッ!よし決まり!俺は部室を探すから他の面倒な色々は全部任せるなんだぜ!!」
 「らめぇぇぇぇ!ちんぽみゆくでちゃいましゅぅぅぅぅっぅぅぅうううううーーーーーー!!!(射精ーーーーーーーー!!)(失神ーーーーーーーーー!!!)」


 
 
 
 そこで俺の意識は無くなり、気がついたら保健室。
 結局その日はそのまま帰宅ということになってしまった。
 この日の話をはそれから数日後、谷口から聞いたのだが……。
 どうやらあの後ハルオは教師たちにこってり搾られそうになり、逆にしっぽり搾ったり搾られたりまあなんだかそういうあれになったらしい。
 そしてあの事件は瞬く間に全校生徒中の汁所となり、ハルオは一躍有名人になってしまったのである。
 まあ無理もない。あれだけの事件を起こしたのだから。
 問題はその事件に、俺が関わっているという事だ。
 なんでそれが問題かって?それは学校中に猛スピードで流れているこれらのうわさ話に耳を傾ければすぐに分かる話さ。
 ハルオは何故事件を起こしたんだ、新入生のキョンとかっていうやつが原因らしいぞ。
 なんでも男男のもつれらしい。プレイ中の事故だったらしいぞ。授業中でもお構いなしだそうだぞ。
 等々―――。
 実に様々な憶測や推測が学校中を飛び交い、その渦中になんとも不幸なことだがこの俺も巻き込まれてしまったという事なのだ。
 そんな訳で、わざわざ演じていたノンケとしての俺は見事に死亡を遂げ、俺は学校内外を通して羞恥の、もとい周知の事実として
 薔薇族にさせられてしまったのである。
 折角薔薇族としての憧れを捨ててノンケ生活を始めようとした矢先にこれとは、いやはやなんとも皮肉なものである。
 それだけでもかなりの苦労だというのに、ハルオの部活という、どう考えてもR35禁(六尺着用歴35年未満禁止)的なものを
 作る手伝いとして、なんと俺が選ばれてしまったのだ。
 俺はいつ選ばれたのかすら分からない状態で、後から谷口に聞いてようやくその事を知ったのであるが、
 選んできた当の本人、涼口ハルオは涼しい顔をして、
 
 「よろしく頼むんだぜ!」
 
 と一言。
 それから俺が何を言おうが叫ぼうが、既に舞台キメ始めたハルオの耳にそんな言葉が届くはずもなく、
 俺はため息混じりに肩を落とし、結局、俺はハルオが思うままに動いてやったのである。
 
 全く、俺はツイてない。
 
 
 
 
 
 
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