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涼口ハルオの筋肉 1-1

 
 「キョンです、これから三年間よろしくお願いします」
 
 ΩΩΩ<<< わー、ぱちぱちー
 
 何とはなしに行われるまばらな拍手を聞きながら、俺は妙に緊張した体を抑えながらゆっくりと席に着いた。
 さて、自己紹介という通過儀礼も無事終わり、ようやっと一息付ける。と徐々にこわばりの取れてきた体を堅い木の背もたれによりかからせる。
 と同時に後ろから立ち上がる音。
 次はどんな奴だ、いい男かね?
 と、そんな事を思っていると―――。
 
 
 ダンッッッ!!!!
 
 
 「涼口ハルオなんだぜ!!!ただのノンケにゃあ用はねぇ!!
  この中に薔薇族、雄野郎、兄貴が居たら是非ともお、お、俺と、爽快なホモセックスでハメ狂わねえか?
  以上ッッッ!!!」
 
 
 瞬間、教室中が、しんという音が逆にうるさい位に静まりかえる。
 え、なに?これ、ひょっとして興奮するところ?
 慌てて振り返ると、とんでもないガチムチ色黒六尺兄貴がそこに居た・・・!
 
 
 ディンディディッディーディディンディディンディ−ディ パヤパヤッパッパッパー(あのBGM)
 
  
      ざわ・・・
            
               おいなんだよ、あの筋肉・・・
                                  やばっ、勃ってきた・・・
  すっげえ・・・超雄臭ぇよあいつ・・・
   
                   ざわ・・・・
 
 
 机の上でM字開脚になりながら、素敵な笑顔で高速ピストンしているホットガイ。
 前袋からはみ出しているものは、まるで凶悪な悪魔みたいで凄かった。
 おいおいおい、なんだよこのいい男は。こんな大胸筋で挟まれたらどうなっちまうんだ?

 
 こうして高校生活初日に、俺は涼口ハルオというホットガイと出会ったのである。
 
 
 ◆ ◆ ◆ ◆
 
 
 明くる日の朝。
 俺は念入りに教室名を確認してから、まだここで合っているのかと確信の持てない教室の扉を開けた。
 教室内では既に幾つかのグループが出来ているようで、なかなか賑やかなものじゃあないか。
 
 しかし俺の一つ後ろの、教室でやや真ん中辺りの席の周りだけは誰も居らず、どこか隔絶された空間のように見える。
 そしてその席の上では一人大連呼しながら舞台キメているホットガイが居た。涼口ハルオである。
 どうやら昨日の熱烈アピールも虚しく、未だに誰からのお誘いも無いようで、一人男入りまくりで扱くその後ろ姿は
 なんとも哀愁の漂うものであった。いや、漂っているのは哀愁では無く雄臭か?
 まあ無理もない。あんな筋肉の前ではどんなノンケもセガールに睨まれた末堂みたいなもんだろう。
 
 と、そのまま無視していれば良かったのだが、こんな雄臭ぇ薔薇族に出会う機会もそうそう無い。
 少しだけでもお近づきになっておこうかな、と話しかけてしまった迂闊な俺を誰が攻められよう。
 
 「ヴォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!スゲスゲスゲスゲスッッゲーーーーー!!!」
 「なぁ、昨日の自己紹介さ、何処までが冗談なんだ?」
 「ヴォォォォオオオオオ!!!チンポデケェエエエ!!金玉デッケェェェ!!!チン毛!!チン毛!!」
 「・・・あー、もしもしー・・・・」
 「たまんねぇっすぅ!!ここっす!!ここが良いんす!!変態色黒エロおチンポっすぅぅぅぅぅぅ!!!!」
 「・・・・」
 
 参ったねこりゃ、取り付く船も無いとはこの事か。
 俺の必死の呼びかけは空に虚しく溶けていき、当の涼口ハルオは男入りまくりで懸命にRASHを飛ばし続けるだけだった。
 
 さて、この空振りした気持ちを何処に持って行こうか、と妙な気恥ずかしさを誤魔化すように頬を掻いていると、背中の方から
 「止めとけって・・・」と小さく男の声が聞こえた。
 振り返り声の主を捜してみると、そこには俺に苦笑いを浮かべながら指で×印を作っている、名も知らぬボクサーパンツの男と、
 同じく苦く笑いながらこちらを見つめる数人の男子が居た。
 
 え、何?俺、なんか変な事やったっけ?
 
 
 
 
 ◆ ◆ ◆ ◆
 
 
 「アイツは止めとけ、危険だ」
 
 <そんきょ>の体勢で派手にコンビニ弁当を口にかき込み、お茶で流し込んでから、谷口はこう言い放った。
 彼―――、ちょっとワルっぽい、朝に俺へ苦笑いを浮かべながら×印を作っていたボクサーパンツの男である。
 あの後俺は何でか知らないが、なし崩し的に谷口他一名と共に昼食を取ることとなった。
 というか谷口に半強制的に誘われた訳だが。
 まぁ新しい学校に来てまだ一日目という事もあるし、何より他のノンケと良好な友好関係を築いておくというのも大切な事である。
 その和やかな普遍的ノンケ的な食事風景の最中、言おうかどうか悩んでいた、
 
 「なあ、ハルオってどんな奴なんだ?」
 
 という質問がついつい口から漏れてしまい、それまで雄臭さとは無縁だった和やかムードだった谷口他一名が急に無言になってしまう。
 そしてしまった、と思った時には既に谷口のこの一言が出てきていたという訳なのだ。
 
 「どうした、何かまずい事でもあったのか?」
 「まずいなんてもんじゃあ無い、あの三角筋見たろ?奴の筋肉は常軌を逸してる」
 
 確かに、あの大胸筋と言い上腕二頭筋と言い括約筋といい、全てが完璧に整っている。
 あんなガチムチ野郎は他の発展場で探してもそうは居るもんじゃないだろう。
 しかしそれなら尚のことお近づきになりたいという物である。
 なのにこいつらはどうもハルオの事を敬遠しているように思える、というよりしている。
 これはどういう事だろうか?というような事を考えてると、おもむろに谷口が話し始めた。
 
 「俺は奴と同じ中学だったんだが、奴はあの時とちっとも変わっちゃいない。
  来る日も来る日も問題ばかり起こしていたなあ、奴は」
 「問題?」
 
 俺の疑問の声に、谷口は「ああ、色々とな」と苦く笑いながら言う。
 
 「そうだな・・・、一番凄かったのは校庭白濁事件だな」
 「なんだそりゃ」
 「朝学校に行ってみると校庭中が雄汁で埋まっていたんだ。
  ありゃあ驚いたね、確か水位20cmはあったかな、足の踏み場も無いとはあのことだぜ」
 「あ、それ見たなあ。新聞に書いてあったよ。中学校の校庭に謎の湖あらわる、って」
 
 と、これはエキストラその一の言葉である。
 
 「そうそうそれ、あの後大変だったんだぜ?急に教師達が我慢できなくなってその場で盛り出すんだからな。
  俺も混ざったんだが数が多すぎてな、十五人目までは数えてたんだが結局何人とヤったんだか分かりゃしねぇ。
  腹の中がパンパンだったぜ、全く」
 「それはお羨ましい事で。
  それで、どうしてハルオが犯人だって分かったんだ?」
 「そりゃあ決まっている。あんな事できる位の薔薇族が他に居ると思うか?」
 
 そう言ってお茶のペットボトルに口を付ける谷口の顔には、どこか苦い物が浮かんでいた。
 なるほど、これでこいつらの行為にも得心がいった。
 近づきたいのに近付きたくない。なんとも薔薇族らしいジレンマである。
 ちなみに後から聞いた話だが、あの×サインの時に苦笑いしていた奴らは、皆ハルオの元同級生という事らしい。
 
 「他にもアイツ発のエピソードだったらゴロゴロしてやがるぜ?
  教室の机が全部雄汁まみれになっていたり、屋上が雄汁まみれになっていたり・・・
  はたまた本人が雄汁まみれになっていた、何てこともあったかな」
  
 おい、それは常にじゃないのか?
 
 「でもなぁー、モテるんだよなぁー、アイツ。
  ほら、アイツ中身も雄臭ぇが外見はもっと雄臭ぇだろ?そりゃあ入れ食いさ」
 「モテるって、どの位?」
 「ああ、一時期はまさにとっかえひっかえってやつだったらしい。
  一度に五十人と輪になって踊った事もあるみたいだぜ」
 「五十人!?」
 
 おいおい、そりゃあ流石に冗談だろ?フィクションやファンタジーやSODじゃあるまいし。
 顔を引きつらせる俺だったが、恐らくは事実なのだろう。谷口は至極真面目な表情で言っているのだ。
 まあなんだ、あいつならなんでもありそうな気はするが。
 
 「でも別れるのも早かったそうだぜ?一番長く続いたので一週間、早かったら盛り合い始めて
  一時間もしない内に病院へ搬送―――なんてのもあったらしい。
  無理もないぜ。あんないい男と盛り合うんだったらソフキャラ主人公程度の絶倫さじゃあとても足りやしない位だ」
 
 確かにな。話を聞く限り、どうやらハルオはマジもんの薔薇族らしいし、その程度じゃとうてい盛り合う事など出来ないだろう。
 と改めてハルオの雄力を確認したところで意味が無い気がするのだが・・・。
 
 
 ―――ん?
 何の気無しに窓の外を眺めると、ふと視線の端にあの赤銅の肉体が映った気がした。
 視線を動かしてみると屋上に誰か居る。涼口ハルオだ。
 
 ハルオはフェンスを乗り越え、そのまま<そんきょ>の体勢で全校生徒に見せつけんばかりに激しく扱き倒していた。
 やれやれ、気が付いたら舞台キメてるとはね。あのままじゃあ学校が妊娠しちまうぞ、全く。
 
 
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