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わくわく


広いタイル張りの、無機質的な部屋に一つのテーブル。

そこに眼鏡を掛けた男と、その横に獣の様な男が存在している。 

眼鏡の男は黙々と、紙やら鋏やらが散らばっているテーブルに向かい、何かを作っていて。 

獣の様な男は立って『それ』をじっと見ていた。 

「兄さん、何を作ってるんだぃ?」 

獣の様なその男は、眼鏡の男に話しかける。 

「―――車をね、作ってるのさ」 

眼鏡の男は、ちらりともこちらを見ずに言う。 

車――― 

一体、何を言っているというのだ、この男は。 

獣の様な男は数秒の間軽く思案し、眼鏡の男を見る。 

「―――車だって?」

「ああ、車さ」 

ますます訳が解らない、紙やら何やらで車?馬鹿げている。 

「へっそうかぃ、まぁ頑張りな」

「ああ」 

その後、眼鏡の男はぶつぶつと何かを呟きながら手を動かす。 

そして。 

「できたよ―――」 

獣の様な男は『それ』を見る。 


ぞわり。 


獣の様な男の背中に、虫の這うような感触。 

馬鹿な。 
紙で。 
車。 
車が。 

そこに有った『それ』、それは間違う事無き車であった。

にぃ、眼鏡の男は口端を吊り上がらせる。 

「―――おいおいどうした、案山子じゃああるまいし」 

ごぶり、獣の様な男は喉に貯まった唾を飲み込み、ゆっくりと口を開く。 

「すげぇ―――」 

眼鏡の男はいよいよ楽しそうに口端を吊り上がらせる。 

「そして、車って言ったら走らなきゃあねぇ」 

と、眼鏡の男は『それ』にごつごつとした手を延ばす。 

走る。 

走ると言ったのか?この男は。 

「さぁ、始まりだ」 

獣の様な男は食い入る様に『それ』を見ている。そして。 

眼鏡の男は手を動かした。 


ごろり。 


ごろり。 


ごろり。 


岩の転がる様な音と共に、『それ』はゆっくりと前に進んだ。 


おきゃあああああああああああああああああああああああああああああ


獣の様な男は喉から怪鳥の様な砲叩を搾り出す。 

進んだ。 

あの、紙の車が。

獣の様な男は眼鏡の男を見る。 

「―――なぁ、和苦和苦さんよぉ」 

そして、躊躇う様に数秒の間。 

「おいらにも、こいつを一つ頼みたいんだが」 

にぃ、眼鏡の男の口端が軽く持ち上がる。 

「あんたにだって作れるさ、後露利」 

俺でも、作れる? 

ああ、作れるのさ。 

ならば和苦和苦さんよ。 

「作ろうか」

「作ろうか」 

そういう事になった。
 
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